笙の研究 Ⅲ


                                    

 
21 私の調律
 行(430hz)乙(645hz)を合わせた上で。
     乙八七

      七一下千

      下千・言

      下言・工

      工下・美

      工美

      行乞乙

      行凢乞

      行上凢十

      行上十

      十上・比

      十比・行

      行比八

      行八・乙

      乙七一十

      七一・凢・下

      七乙・八

 [一凢]を合わせたとき、[凢]を微妙に(2~3hz位)下げ、[上]も[凢]に合わせて下げる。
 [一凢]は一の合竹に使う音であり、[凢]を下げた方がスッキリするような気がします。逆に[一]を上げると、[七]も上げなければなりません。
 [七]の音程は大事ですから動かしたくない気持ちがあり、私は[凢上]を下げています。

 笙もピアノと同じ平均律の楽器ですから、どこかで「ごまかし」が必要になるのです。箏も同じです。ギターも同様ですが、琵琶もクロマチックチューナーで合わせただけではダメです。
 ごまかしは聞こえが悪いので[ひずみの解消」と言いましょうか。

 調律が出来たら、音取風に気替を交えながら続けて吹くと楽しめます。「・」は「下千」を残し、「言」を加えるという意味です。アドリブを交えるのもよいでしょう。                                                    2005.5.28

 
22 初めて合奏をする人のために
 私も最初は面くらったものですが、同じ思いをしている人もいるようなので書くことにしました。
① 越天楽のようにメロディーのわかりやすい曲でも、笛や篳篥のメロディーに接すると、とまどいがあります。笛も篳篥も、笙の唱歌のように息継ぎをしません。洋楽で言うシンコペーションのように、次の小節へ音が続く奏法があります。
 洋譜の付いた解説書もありますので、目を通しておくのもよいでしょう。
② 雅楽は、どの曲も笛の音頭(おんどーーイントゥロ)があって、太鼓の印「●」大きな黒丸から皆で吹き始めます。この場所を付所(つけどころ)と言います。
 曲によって、あるいは演奏形式によって一つめの太鼓(初太鼓という)から付ける場合と、二つめの太鼓(二太鼓)から付ける場合があります。これは、その都度先輩に聞くとよいです。
 「加え」といって曲の途中から太鼓の印のない所もうちます。曲によって入り方が違いますから、ゆとりが出来てから打物譜を見るとよいでしょう。
楽譜には印がありませんが「●」印より二拍前、つまり前小節の三拍目にも太鼓が入る形式になっています。先の音は小さく「ズン」「●」の音は大きく「ドゥ」と打ち分けています。
 笛の音頭に合わせて鞨鼓が打ち始めます。最初から聞き分けるゆとりはないでしょう。練れてから聞くようにして下さい。
 太鼓の「ズン」が鳴り、四拍目あたり、つまり「付所」の一拍前あたりから笙の主管が吹き始め、続いて皆が一斉に吹き始めます。 笙を構えるのは「付所の一小節前からゆっくり持ち上げ、三拍目の太鼓のズンのときに口に届くように」と私は教わりましたが、会によって差があるようですから主管に合わせるとよいのです。ただ、主管を見ていると気が散りますけどね。
 付所で、洋楽のように全楽器が同時に音を出すかというと、そうではありません。鞨鼓や太鼓は管楽器の音を聞いてから打ちます。これが雅楽の出だしですからあわてないように。このとき拍を数えるのには笛が頼りです。③ 合奏は篳篥のメロディーに耳をこらすことです。そのためには暗譜しておくこと。楽譜を見るとしても、チラッと見る程度で済むようにしておかないと、楽譜に気を取られて耳がお留守になります。
 笙の唱歌と篳篥のメロディーがすべて同じというわけではないので、途中で迷子になっても、どこで違ったか覚えておくと次に吹くときに気をつけることが出来ます。
④ 手移りは無意識で動くようにしなければいけません。考えながら動かしていたのでは篳篥を聞くことが出来ませんから。
 「ウウンジャ」は最初から揃わなくても仕方がありません。篳篥を聞くことが出来るようになればわかって来ます。
⑤ 気替は、息を替えるときの音が目立たないように、篳篥の音に隠れるように篳篥が吹くのを待って気替をします。最初は気にしきれませんが、これが正式だと知っていて下さい。
⑥ 曲のテンポです。
 個人レッスンのときは、唱歌も笙を吹くときも合奏より早めにしているのが普通です。お弟子さんが多ければ、先生も時間を短縮しなければなりませんので。
 そのテンポを身につけて合奏に参加すると、とまどいを感じたり息が苦しくなったりします。
 そのための練習方法。
 時計の秒針を見ながら、一行(越天楽の八小節)を一分で吹くのです。吹いて吸って15秒、ズレがあってもかまいません。おおむね一行一分です。
 雅楽は、ゆったり吹き始めて少しずつ早くなりますが、一行一分と思って練習しておけばたいがい対処出来ます。
 ある程度合奏に練れてくればわかることですが、雅楽は洋楽のようにテンポやリズムがキッチリしていません。このテンポの揺れを「大波小波」といいます。
 篳篥を吹く人の曲の解釈や気分によりますので、同じ気分になればよいのです。
 「引」に関しては、宮内庁楽部の先生方は「苦しければ目立たないように気替をすればよい」と教えてくれます。ただ、四拍の息遣いで八拍吹ける道理はないので、「引」は音は小さくなるものと思って下さい。
⑦ 笛の音頭を聞いていても拍は数えられません。そこで、笛の一行目を笙の一行目の横に書き込むとよいのです。
笛の人に楽譜を見せてもらい、レパートリーが増えるごとに書き加えるとよいのです。そして、ついでに、音の続くところ切れるところを教えてもらうのです。笛の楽譜にも「。」印がついていますが、「。」印で切れるとは限らないからです。
 笛の譜はカタカナですから、音を聞きながら見ていれば何となくわかって来ます。曲によっては笛の楽譜に書いていない音が入る場合がありますから、笛の人に聞いておくのがよいでしょう。
⑧ 陪臚の出だし、 十十_下引。は、 二拍四拍ですが、 笛の音頭は四拍四拍に聞こえます。気にしておいて下さい。
 合奏は、ひとの音を聞く練習であり、雅楽は、人の音を聞いて楽しむ音楽です。ゆとりを持って楽しんで下さい。
                     2005.6.25

 23  笙の調律ABC
  
A 微調整
 オモリを調整してピッチを直す。
 調律して半年もすると、青石が飛んだり、
オモリの蝋が乾燥したりしてピッチが上がります。それで、とりあえず蝋を付けます。

  B 洗い調律(メンテナンス)
○ リードを洗う。振動弁のゆがみを直す。オモリをつける。青石を塗る。竹につける。微調整をする。
○ 場合によっては、屏上を開け直したり、舟底に蝋を詰めたりする。
○ 一年に一度のメンテナンスが必要とされています。

 
 C リードを削り直す(リフォーム)
○ 重いリード、バランスの悪いリードを削り直す。
○ 削る部分は主に中間より先で、しなり具合を良くします。
○ コの字の透間が広すぎると、青石が余計に必要となり振動が重くなる。しかし、カミソリの刃が差し込めないほど狭いと、塗った青石が振動をさまたげてしまうから、削らなければならない。
○ リードの構造によっては直せないものもあります。
○ リードの長さも作る人によって差があり、大簧小簧を問わず短いリードは手を加えずらい。
全体にゆとりがないのです。
○ 枠が薄いのはゆがみやすく、音が片寄りやすい。この片寄りは直せない。
○ 振動弁が薄い方が振動しやすいのだけれど、音のバランスを気にしないで薄くしてしまったのは、手を加えずらい。
○ 舟底が浅すぎて風圧の弱い場合は、リードをやわらかくしても限度があります。(竹を削りすぎているのであり、調律の作業をするのに折れそうで気が気ではない)
○ リードを全取り替えする人もいますが、取り替えてもバランスが良くなるとは限りません。たとえリードの作りが一律であっても、竹は一本一本響き具合が違いますから,竹に合わせてリードを削り直さなければならないのです。
○ 一般に調律といえばBの洗い調律までで、Cの出来る人は限られます。
○ 竹のリフォーム
 竹にヒビが入っていたり、竹が痩せてゆがんだりした場合も、音が出なかったり音を合わせずらかったりします。それなりに修理が必要です。
 たぶん、これをするのは私だけだろうと思いますが、「下」や「比」の指孔の回りを削り直すことがあります。おそらく、穴の回りを削る意味を知らずに削っているのでしょう。特に「比」の場合は、リフォームのしようがない例が多いのです。
                      2005.8.8


24 調律の裏話

 私のところへ調律に持って来る人は、吹きやすくして欲しいと注文をつけますから、リードに手を加えます。
 吹く人の依頼ですからそうするのですが、よそ様の作ったものを作り変えてしまうのは作者に失礼なことです。
 私は吹く人へのサービスと思い、調律代以外は頂きません。
 とは言うものの、完成品に手を加えるのは流儀の違いもありますから、高度の技術も必要で手間もかかるのです。
 手直しをするリードの出来が悪いのではありません。どうしてこんなに綺麗に出来るのだろうと思うのもあります。でも、美しさと音は別です。
 機能を備えた美を機能美といいます。笙は和音を受け持つ楽器であり、それも特種な和音ですから、聴きわける耳作りが必要です。 私の吹いていた笙のリードは私の師匠の岩波滋先生に付けていただいたものですから、お手本が手元にあるのです。
 良い音の笙は、一人で吹いていても楽しいものですよ。
自分でも笙を作ってみたいと思うようになり、それが出来てからは自作の笙で演奏活動をしました。そして、リードを削り直したり取り替えたりしながら音を求めました。音を探求する喜びを感じます。
 私の体験で言うならば、リードは吹く人が作るのが理想だと思います。篳篥の人達が自分でリードを削っているように。
 今は、ホームページでの調律は受けていません。自分流の笙を作るのに時間をかけたいので。
                        2007.2.11

25 笙はどのように不協和音か

 笙の調律は「行(A=430Hz)」を基音に、3度5度8度で合わせます。
 笙の和音は基本的には十種類で、そのいずれにも「行(A)」ど「七(B)」の二つの音が通奏音として入っています。
 その十種いずれもが「行」を中心にした3度5度8度に該当する協和音と、「七」を中心にした3度5度8度に該当する協和音との二種類を一つに合わせたものです。
  乙(E)音を基音とする和音の例。




 つまり、どの和音の組合わせでも、図のように「行」列では協和音であり、「七」列でも協和音ということです。二列を合わせて不協和音になるのです。
 ところが「工(C♯)の一音だけは「行」列に対しても「七」列に対しても不協和音です。この「工」の音が入った「工和音」は本当の不協和音になります。
 それがため、越殿楽を習い、三行目になって「工」の和音に出合ったとき、異和感を感じるのです。指を押さえ違ったかと思う人もいることでしょう。
 おそらく、このような不協和音を入れることによって、単調になりがちな気分に刺激を与えるのではないでしょうか。
 笙の不協和音が心地よく聞こえるのは、一本一本の音が稚拙だからです。稚拙とは子供じみている素朴で純粋な味わいがあるということです。
 だから、笙を単音で奏するのは特種な奏法ということになります。
 笙の和音は6音、ときには5音ですが、この音のほかに他項で記したように「蝉の声」と呼ばれる共鳴音が鳴ります。
 蝉の声が鳴るのはリードの削方によりますから、どの笙も蝉の声がすると思わないで下さい。
                     2008.2.29

  
26 調律の裏話(2) バランス

 バランスの良い笙はどの程度のものか、ということを知らないと比較にならないでしょう。
 笙の吹き始めに、パラパラッとアルペジオ風に鳴り出す例が多く、これが笙の特質だと思うのは間違いで、バランスの良い内には入らないのです。
 リードを作ることの出来る先輩が言いました。「六つの音が揃ってシャーッと鳴り出すのが良い笙なんだ」と。
 そのような笙を持っている人はいますし、私もそのように作っています。
 吹き始めのアルペジオ風は面白い味ですが、気替をしたときに揃わないと不都合です。音が揃う強さで吹きますと、四拍目を強くするのに努力がいります。
 でも、そのようなリードが好きな人もいますから、それはとやかく言いません。
 一般には、年をとって息が続かなくなり、吹くのをやめてしまう人もいます。
 「良い笙は年をとっても吹くことが出来る」という話を耳にします。
 バランスが良く軽く吹けるのです。
 この「軽く」というのを、リードが薄くてたよりないのではないかと思う人もいるでしょう。篳篥の年配者が「リードを薄くして軽く音が出るようにしないと息が持たないし、リードが弱くなって長持ちしないし」と言っているのを耳にします。
 笙のリードも同じだろうと思わないで下さい。篳篥のリードは葦ですから、表面の強い繊維を削って弱い繊維になっているのです。 バランスをよくするにはどうするか。
 それは、吹く人と作る人のコミュニケーションです。
                    2008.3.10

  
27 調律の裏話(3)片鳴り

 リードが片寄って、音が片方が強く片方が弱く鳴るのを片鳴りと言って、吹く上で気分のよくない現象です。
 笙の研究の冒頭で説明しましたが、調律に出して直してもらえたらと思うことでしょう。 竹を抜いてリードを見ると、青石を塗った弁のセンターに線が引いてあります。これは片寄った弁を針で押すためのものです。
 線がないと、針で押したところがプツプツと点になり見た目が悪いから、線の上を押さえるというわけです。でも、実際には線からはみ出してしまいますけれど。
 とにかく、このような線を引いておきたくなるほど、片寄りが多いということです。押し過ぎるとリードをはずして裏から押し返さなければなりません。
 片寄らないリードもあるのですから、そのような状態にすればよいわけですが、見落しがあるのか、合金の混ざりに差があるのか、一様にはいかないものです。
 吹かずにいても片寄ることがありますが、記憶合金のように削ったときのゆがみに戻って行くのかと思います。癖を忘れさせなければなりません。
 一時しのぎではなく、元から解決しなければきりがありません。洗い調律のたびに根気よく対処することになります。
 直せないものもあります。リードの枠が薄過ぎる場合、作った人がリードの構造に思い違いをしている場合、などは息の力で片寄ります。これらは、リードの取り替えも考えなければならないでしょう。
                  2008.4.3

  
28 調律の裏話 (4)蜜蝋
 
 蜜蝋の説明は「質問箱6オモリが取れやすいのはなぜ」でしましたが、追加します。
 ローソクの蝋と違うところは接着力で、時がたつと乾燥して接着力を失うと説明しました。
 もう一つは、寒いと固くなり接着力が弱くなります。
 冬、又は夏でもクーラーで冷えているとき、しっかり暖めずに吹くとオモリが取れます。たぶん、鳴らない音があるのに力を入れて吹くからでしょう。
 暖め足りないと緑青石も飛んだりして、わずかなりにピッチが上がります。それでも息漏れが気にならない程度なら、オモリの微調整をしながら吹き続けることは可能ではありますが、、、。
 調律者にとって困るのは、緑青石は年月がたつと金属にこびりついて水洗いでは落ちなくなることです。
 カミソリで削りますが、その手間が余計です。
 透き間の取れ残りは揮発油で洗いますが、これもスンナリ取れません。
 「調律は一年に一度するように」と先生に言われ、そういうものなんだと思いました。 なぜ一年ごとの調律が必要かというと、蝋が乾燥すればその分だけピッチが上がりますし、緑青石も前期の通りです。
 しかし、世間では一年で調律に出す人は少ないようです。わずかなズレですから、気にしないでいると耳が慣れてしまうのです。
 私はバイオリンを奏いていましたから、自分で音を合わせられない楽器の不便さを痛感しながら、一年が待ちきれない思いでした。 毎年調律出来ない事情もあるでしょうが、身近に調律の出来る人がいるならば、こまめに微調整をしてもらい、美しい音程を楽しんで欲しいと思います。
                     2008.4.22
  
29 極秘情報の公開

 公開してもたどりつけなかったら極秘と同じという意味です。笙の研究で記したことですが、あえて要約しました。
 「 」の言葉は笙の音にこだわりを持つ先輩方の言葉です。
 ①「合竹の6本の音が揃って鳴り出すのが良い笙です」
 吹き始めのパラパラというアルペジォ風の音が笙の特色だと思うのは間違いで、バランスの良い笙とは言えないという意味です。
 リードを竹に付けてから調整しなければならず、手間がかかります。
 ②「リードを付けてから3~4回は削り直すことになる」
 削り直してもダメで、リードを替えることもあります。空鳴り片寄りにも対処します。
 この調整で1ヶ月はかかります。そこまでしないと良い音を作り出すことは出来ません。自分でリードを作る演奏家のこだわりです。
 笙メーカーにこれを要求するのは酷でしょうか。
 ③「音の出始めは軽くて、力を入れたときに腰の強いのが良いリード」
 この吹き心地は名器の吹き心地を知らないと比較にならないでしょう。振動弁のしなり具合によるのです。
 「釣竿のしなり具合」と私は言っているのですが、説明は笙の研究19に記した通りです。
 しかし、針で押したときの指の感触や響き具合は、図や文章で示すことは出来ません。誰かに教えたい。
 ④「笙の音は蝉の声」
 合竹6本の実音ではなく共鳴音のことです。
 (七)と(八)の竹を単音で合わせて(八)より高い音が聞こえたら、それが共鳴音です。その共鳴音が出るようにリードを削ります。
 そして、(七)の音に合わせて他のリードも調整します。そうすると複数の共鳴音が鳴り、それが蝉の声です。
 この笙ならば一人で吹いても飽きることはありません。
 ⑤「音が溶け合うと自分の音が聞こえなくなる」
 コーラスでは、自分の声が聞こえるようだと発声練習からやり直さなければいけないとのこと。笙はリードを削り直します。
 鼻先で音がしなくても頭の上で共鳴音が鳴っていますから、それが聞こえる耳にすることです。
 ⑥「片鳴りはリードのくせ」
 くせを無くさなければきりがありません。片寄らないのもあるのだから、それと同じ状態にすれば良いのであって、調律のときに見くらべることです。針と指で直します。
 ⑦「和製のサワリは柔らか過ぎ」
 鉄と鋼の違いと言う人もいて、バネの強さが欲しいのであり、製造元で鍛錬してもらえないかと思う。
 ⑧リードの長さ、厚さ、コの字の形と長さ、根継の空気の通り具合、などの材質や構造は、その理由を知らなければいけません。
 伝統は理論を伝えないからズレが生じます。

 私は凝性だから、ここまで探求して自分の笙を作りました。
 レベルの高い演奏仲間に恵まれたのが好運でした。
 今は求める人のために作っています。
                    2009.3.11
  
30 初心者のために

 教室によっては、先生の指導方針によってか、曲に入るのが早過ぎないかという気がします。唱歌は出来ていますが。
 ○ 笙はなぜ暖めるのか
 笙を暖める理由に蝋の説明をする人がいます。(蜜蝋の説明は、質問箱6と笙の研究28にあります)
 では、なぜ竹も暖めるのですか?吹き終ってからも暖めるのはなぜですか?
 冬に息が白くなるのは誰でも知っています。それは冬だけのことでしょうか?メガネを拭くときに息をかけます。湿気がつくのはメガネだけでしょうか?
 湿気がリードの振動をさまたげ、竹の振動もさまたげます。最後に暖めるのは、管内に残った湿気でリードが錆びないようにするためです。
 リードの寿命を縮めてしまう人があまりにも多い!
 ○ 暖め方
 片手の親指と人差指で笙の重心を支えます。もう一方の手はお椀(頭・かしらと言う)の底の中心に中指を当て、他の指を添える。親指は吹口をまたいで押さえる。
 両手の親指を押し上げるようにして回転させる。吹口から熱が入り、中で回転するように願いを込める。
 頭と竹を交互に暖める。
 竹を暖めるときは、片手を火の上にかざし、もう一方の手で頭を握り、かざした手の下を竹が行き来するようにゆっくり押引きする。握った手を握り直しながら回転させて竹全体を暖める。
 左右の手を持ち替えても出来るようにする。片手で暖めるのはベテランと呼ばれるようになってからです。
 夏と冬の差はあっても平均して10分くらい。
 鏡の部分に指を当てて、ヒヤリとしない程度と教わっていると思います。
 楽な方法を考えたいものですが、これが「風流」と思わないようでは吹くのも上達しません。
 ○ 基礎練習
 「乙」の合竹を四拍数えながら吹いて吸って5分間続けられるように。
 「千十下乙‥‥」竹の名称を覚える。
 左手の練習
 「乙」の合竹から、左薬指を隣の「凢」、その向こうの「乞」へ行ったり来たりする。
 四拍数えて移りますが、四拍目で移動する指をゆっくり下方に撫るようにして離し、次の一拍目の前、つまり、息を替える少し前で隣の穴を押さえる。
 このとき、指が穴を通り過ぎても竹のはずれまで行くつもりで指を上げ、ゆっくり移動します。雅楽の四拍目は長くなります。洋楽のポコリットです。
 これを「手移り」と言い、動きのタイミングを「ううんジャ」という表現をします。向こう側を見てはいけません。指で探る練習ですから、音で確認して下さい。
 一拍目はPPで、徐々にクレッシェンドし、四拍目がf かffになります。
 「ううんジャ」の盛り上がりは、三段跳で踏み切ったときのように弧を描いて「ジャ」で着地する感じと思えばよいでしょう。
 その高さと距離は「大波・小波」と言って、曲の盛り上がりによります。
 曲に入り、指を二本以上動かすときは、高い音からはずして行き、先発の指が下げ終ってから次の指が動き始めるようにします。
 離した指は弧を描きながら、押さえるタイミングを計っていると思って下さい。
 合奏になれば、ヒチリキの人がここえ来て欲しいという呼吸を察して「ジャ」を押さえます。これが雅楽の間(ま)です。
 テンポは、吹いて吸って15秒、越殿楽だと1行1分になります。
 雅楽は、曲の初めと終りではテンポが違いますが、1行1分で練習しておけば対応できます。対応出来る柔軟性が必要になると思って下さい。
 以上のような基礎練習が出来ないまま合奏をしても雅楽にはなりません。              2010.9.5
 
31 緑青石の錆

 リードに塗った青石(緑青石の略)が錆びる例です。
 どういうことかと言うと、リードに塗る青石はリードと同質のサワリの皿で摩りますから、サワリが摩れて混入します。それが接着剤になるのですが、そのサワリの粉が錆びるのです。
 リードの錆には至らなくても、この錆により青石が硬くなってこびり着きます。ブラシで洗っても落ちずカミソリの刃で削ります。それだけなら調律の手間ですが、音に影響すると思って下さい。
 こびり着いた青石がリードの振動をおさえ音が片寄り、吸ったときに鳴りずらくなります。「上」のリードが早めにそうなります。
 「上」はリードが短かく竹が長いから、竹の湿気が短かいリードに影響を与えます。
 「八」は竹が短かいから湿気の量はそれほどでもない。
 「乞」などの大簧は竹が長くてもリードが大きいから、青石の錆にもかかわらず振れてしまうのかも知れない。このような錆もあるのです。
 「乞」だけ鳴らなくなる例がありました。これも湿気の影響です。
 塗料でコーティングした竹は表面から湿気が発散しませんから、湿気がたまるのが早く、余った水分がたれてリードを濡らします。
 そのまま吹いていると、リードの透間の青石が振動で下方に流れます。それがリードの根元に詰まって動きを止めてしまうのです。
 なぜ「乞」が先かというと「乞」は屏上が上の方にあるので、息の湿気を竹全体で受けているからです。
 高い音は屏上が下の方にあり、そこから息が抜けるから、上部を濡らす息の量が少なくなっているのです。

 笙の暖めかたは最初に指導されているはずで、その通りにすれば何のことはないのです。「蝋が溶けないだろうか」とか「この程度でいいだろう」とか、自己判断をしていませんか?
 蝋が溶ける温度を知りたければ、ローソクの溶けた蝋を手の平にたらしてみればよいでしょう。
 笙を吹いている間温度を保っているか、仕舞うとき湿気がとれているか、知りたければ竹に聞いてみればよいのです。
                  2013.07.01


  

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