質問箱 T


 1,空鳴りの原因について

 指穴を押さえないのに、軽く吹くと鳴ってしまうのを空鳴り(からなり)と呼んでおります。その原因は。

1,リードが片寄っている場合です。
 指穴を押さえて吹いたときに、吹く音と吸う音のバランスが同じでなく、どちらか一方が大きく鳴るのを片鳴り(かたなり)、又は片音(かたね)と呼んでいます。
 リードがもっと大きく片寄っていると指で押さえなくとも鳴ってしまう場合があり、こちらを空鳴りと呼んでいます。どちらも見た目ではわからない程の片寄りです。
 これらの原因は、私のHP「1,片鳴りの原因と解決方法」で記した通りです。

2,今まで何でもなく吹いていたのに、一ヶ月以上休んでから吹いたら空鳴りをしてしまう場合があります。それは、青石(しょうせき)が固まってリードにゆがみを与えてしまうのだろうと思います。しっかりしたリードでもあり得ることです。
 いずれにせよ、針で押して直しているのが普通です。

3,「2,舟底(ふなぞこ)の形」のところで記しましたが、リードの腰が弱いと鳴ってしまう場合があります。リードが取り替えを要するほど弱くなければ、舟底の蝋を詰めて直すことが出来ます。

 2,笙の購入の仕方について
初めて笙を買うときに知っておきたいこと、というご質問ですが答えずらい質問で困りました。
 「音のバランスが良いこと」と言っても、吹いたことのない人にはわかりません。「息漏れがしないこと」と言っても、どこを見たらよいのかわからないでしょう。
 値段の違いについて説明するのは、メーカーや楽器店に対して差しさわりがあります。
 私の作ったのがいいですよ、と言うのは自己宣伝ですから問題はありませんし、評価はひと様のなさることですが、他の笙と比較できないと張り合いがないでしょう。

 これでは答えになりませんので、別の角度からアドバイスをします。
 雅楽のお稽古は、『唱歌(しょうが)』といってメロディーを歌って覚えてから楽器を吹くことを習います。早く音を出してみたいと気持ちははやるでしょうが、唱歌を何曲かしっかり習った方が上達は早いのです。
 で、唱歌を習いながら先生や先輩方にお聞きして、どのランクの笙を購入したらよいか判断なさればよいと思うのです。うわさ話を聞いて判断するつもりで、複数の意見を求めたらよいと思います。

 3,青石でリードの透き間を埋めるとき
 弾いたら欠けてしまうのは、リードの透き間が広すぎる場合があります。つまり、青石で埋められる限界がありますので、どのくらいが限度かは経験で覚えてください。
 青石は、少ない量で用が足りるのが理想だと思います。リードに物が着くこと自体、リードの振動を妨げるわけですから。
 オモリは、振り子として振動を助ける面と、振動を妨げる面の両方があります。
 青石が、表は全面に塗り、裏は透き間だけしか塗らないのは、リードが揺れるときオモリのある方へ引かれやすいのを、青石によって妨げるのだと教えられました。
 オモリが振り子と同じということは、時計の振り子のように振動をセーブしコントロールしていることになります。青石も同様、振動をセーブし、、コントロールするのだと思います。その結果として笙独特の音になるのでしょう。
 だから、青石の理想的な塗り方は、必要最小限であろうと思います。私の笙を先生に塗っていただいたときは、私よりきめ細かい粉末で少ない量で仕上がっておりますから。
 それで、前記のように透き間が広すぎないでしょうか、ということになります。
 もう一つ、青石の接着力が弱い場合があります。これは、「青石について」の項をご覧下さい。

 4,リードを削るとき

 乞,一、工など大簧(大リード)は、Aの部分を大きく残しますが、中簧、小簧も少し残るようにして、微調整で音を高くしたいときに削ります。この部分を最初から薄くしてしまうと、後から調整が利きません。
 Bの部分を薄くすると、音が下がりすぎたときAの部分を削っても追いつかない場合があります。 先から元まで同じ厚ささに削ると、つまり平らにしてしまうと、後で修正がしづらいです。それと、笙の音とハーモニカの音の違いは、笙のリードがくさび型になっているせいではないかと思います。全体を同じ厚さにすると、ハーモニカの音になります。
 Cの部分をかまぼこ型にする人、平らにする人がありますが、リードの腰をしっかりさせておくには、かまぼこ型の方がよいと教えられました。ただし、小簧は、かまぼこだと腰が強過ぎて鳴りません。
竹に着けて吹いてみて、堅いからもう少し削ろうという場合もありますし、全体のバランスで手を加えたい場合もありますから、後で削るだけの厚みは残しておいた方がよいと思います。
 それと、ドラの部分によっては響きの悪い部分があるらしく、削っているうちに薄くなりすぎて、音のでないままダメにしたことがありました。笙作りの専門の人の話も耳にしました。「ドラには響きの悪い部分もある」と。響きの悪いリードでも、別の竹に着ければ鳴る場合もあるようです。
 失敗すると悔しいけれど、鳴るとうれしいですよね。

 5,笙が上手になるには
 「先生の教えを忘れずに、短時間でも毎日練習することです」というのがあたりまえの答えですが、どうもそのような状況ではなさそうですね。
 過日も笙を独習しているという人がいると知り、びっくりするやら感心するやらでした。笙の音を聴きたいという質問については、『雅楽独習用カセット』というのをレコード店でお問い合わせ下さい。 身近に先生のいない地域で笙を習いたいという人もおられるでしょう。通信教育を考えてもよい時代なのかもしれません。独習用のビデオもあるようですから武蔵野楽器(03−5902−7281)にお問い合わせ下さい。
 先生に習っているけれど、もっと上手になりたいという人もいますし、独学で上手になれるだろうかという人もいることでしょう。どのような状況かお聞かせ下さればそれなりの答えが出来るのですけれども。
                   2001.6.26

 6,オモリが取れやすいのはなぜ?
年月と共に蜜蝋の接着力が弱まります。笙を暖めて蜜蝋に柔軟性を持たせるわけですが、古くなれば限度があります。油気が抜けていくからです。ローソクの蝋とは油の性質が違うのだと思います。

 蜜蝋について説明します。 
 テレビで知りました。南方の先住民は、蜂蜜を食する習慣はなく接着剤として使っているとのこと。
 本邦で蜜蝋といえば、蜂の巣から食用の蜜を採取した後、巣に付着している蜜を搾り取ったものです。
 笙で使う蜜蝋は松ヤニを混合して作ります。混合の割合は諸説あり、楽家によって流儀が違うのかと思ったりします。食用蜂蜜の沈殿した結晶と松ヤニを煮詰めて作るという説も聞きました。
 ローケツ染めで使う蜜蝋に松ヤニを加えて作ることも出来ます。乾燥した松ヤニは欠けやすいですから、多すぎない方がよいかもしれません。つまり、松ヤニによって蜜のべたつきをおさえるわけです。べたつきを嫌う人は松ヤニを多くするでしょうし、毎年調律して着け替えるならば、一年の接着力でよいという理屈になりますから。

 笙は、使わないでしまっておいても音が狂ってきます。たぶん、蜜蝋の油と水分が発散してオモリが軽くなるのではないでしょうか。
                 2001.6.28

 7,低い音を直すには
 『とリあえずの微調整』で、高くなった音を低くする方法を書きましたが、低い音を簡便に直す方法はないかとのご質問です。
 現時点ではありません。
 リードのオモリに触れるしかなく、オモリを小さくして音を高くするのですが、昔の人は自分の手の爪に蜜蝋を着けたり取ったりして練習したといいます。
 どのような失敗があるかといいますと、蝋がたれてリードの透き間に入ってしまう場合です。リードをはずして調律の第一歩からやり直すことになります。
 さて、ご質問のような方法がないわけではありません。調律をする人が、最初から屏上になにがしかの蝋を着けておけばよいのです。その蝋を取るだけなら、チューナーに合わせて誰でも出来ることになります。
 しかし、この方法は調律をする先生方の間で協定を結んでおかなければ用が足りません。私の考えが、諸先生の理解を得て一般化することを願うばかりです。
                   2001.8.31

   




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