質問箱 V

 15,笙作りの作業は何行程か
1 竹を仕入れる。
2 竹を揃える。
3 竹を真っ直ぐに矯正する。
4 所定の長さに切り、節を抜く。
5 竹の側面を削る(約6行程)。
6 竹の皮を削り磨きをかける(約5行程)7 根継を作る(塗りも含めて約25行程)8 蜂巣及び頭を作る(塗りも含めて約35行程)
9 建合わせ(竹の微調整)
10 金具を作る(4種類、約30行程)
11 屏上孔、指孔を開ける
12 リードを作る(約15行程)
13 リードを着ける(調律は別記)

 リードを着けて、とりあえず鳴るところまで135行程くらいあります。
 私は凝り性で、卓上のロクロを自分で作り、頭(かしら)の木工は自分でしています。しかし、頭や蜂巣その他、外注出来るものは外注した方がよいでしょう。

 さて、とりあえず鳴るだけでは楽器ではありません。音のバランスを整えるために、鳴りの悪いリードは削り直したり、場合によってはリードを取り替えたりすることもあります。
 洗い調律の手順で3〜5回程くり返さないと、バランスを整えることが出来ません。

  洗い調律の行程
1 リードを外す。
2 竹の蝋を取る。
3 リードの縁に付いている蝋を取る。
4 青石を洗う。
5 オモリを取る。
6 リードのゆがみを点検する。
7 オモリを着ける(蝋と鉛)
  蝋の大きさや鉛の量によって、何回もコテを運ぶ。
8 音を合わせる
9 シンナーでリードの汚れを洗う
  蝋の汚れや青石の洗い残しなどを洗う。
10 青石を磨る。
  事前に用意しておくのだけれど、テレビを見ながら2時間ほど磨っても一管分にならないのです。
11 青石を塗る(表と裏と2行程)
12 リードを竹に着ける。
13 はみ出した蝋を削り取る。
14 青石の縁取りをして、センターに線を引く。
15 頭に差し込む前に音を出して点検する。   (音程、空鳴、片鳴など)
16 頭に差して調律の仕上げをする。
17 翌日、調律のチェックをする。
 青石が乾いて音程が変わることがあるから。

 以上のほかに、調律をする人によっては、衛生面を気にしてアルコールで頭(かしら)を消毒する人もいます。私もそのように教わったのですが、面倒だからしません。
 ただし、口金が汚いと口をつける気がしませんので金属磨きで磨きますが、余計な手間になります。きれいに扱っている笙を手にすると丁寧な仕事をしたくなるものです。

 吹く人にとっては、15枚のリードは少ない数だと思うでしょう。しかし、作ったり調律したりする人にとっては、15倍という数になるのです。
 私が笙を作るようになったのは、笙を演奏する立場として自分の作った笙を吹いてみたかったからです。
 それが可能だったのは、雅楽の仲間に笙を作る人が居たからです。そして、身近に作って欲しいという人がいて、少しずつ続けて来たということです。
 工房といえば小工場を連想することでしょう。よその工房はそのようです。
 でも、私は炬燵にあたりながら仕事をしています。笙作りは、それでも可能な地味で細かい作業が沢山あるのです。 
                       2004.11.3

 
16、リードが重い、鳴りずらい
                 その理由

 竹に問題がなければ、ほとんどの場合リードを削り直さなければいけません。
 伝統楽器だから作りが同じだろうと思っていたら、こうも違うかと思うくらい差があります。技術の差というよりも流儀の違いが多いのです。
 手を加えるにしても、他人の流儀を変えてしまうのであり、さりとてこちらの流儀になるわけでなし。
 吹く人に良かれと思うのであって、技術的にも気分的にもやっかいです。
 とにかく購入したところへ行って苦情を言って下さい。「安いから仕方がありません」と言う答えであれば、それも本音です。たとえ何十万円であろうと。
 笙は貴族が手にした楽器です。満足の行く笙であれば、いかに高価なものになるかということも想像して下さい。
「お金を出すから何とかしてくれ」と言っても、急には解決できません。技術を身につけるのは容易ではありません。
 外観にお金を出す人は居ても、リードにお金を出す人は居なかった、というのが今までの流れでした。
 音が出てこそ楽器です。音にお金を出す人が多くなってくれないと解決できません。
 リードに手を加える具体例は、「笙の調律ABC」をお読み下さい。
                       2005.8.8

 
17 笙のプラ管について知りたい
 笛・篳篥のプラ管は、名器を型に取って丸ごとプラスチックにすることが出来ます。名器のコピーが出来るのです。
 笙は、竹をプラスチックに替えるためには二つの条件を備えた材質でなければなりません。@息の湿気を吸収すること。A側面を薄くしても強度が保てること。この条件を満たすのは、今のところ竹しかないでしょう。
 プラスチックにすることが出来るのは頭(かしら)だけです。 根継もプラスチックの例はありますが、根継の形が全部同じであるため、リードもそれ用の形になっており、リードが不都合でも取り替えは出来ません。 頭以外の部分。竹の素材はどうか。竹の作り具合はどうか。根継の作り具合はどうか。リードの材料は何か、リードの作り具合、つまり音のバランスや音色はどうか。といったことは別課題です。
 「そこそこ鳴れば」という問いもありますが、吹いてみないと「そこそこ」かどうかわかりません。

                       2007.2.8

 
18 覚えの早い遅いについて

 何であれ早い遅いの違いはあります。
 ただ、能力の差はどうあれ、毎日練習する人と、週一回の人とでは、進む距離に差がつくのは当たりまえです。
 私が教えて一番早かった人は、一回目のレッスンで越殿楽の一行が吹けるようになりました。だから、三回通って越殿楽を卒業したのです。
 この人は、吹いて吸ってが何の苦もなく出来ました。手移りも素直に覚えました。そして、毎日練習していたとのことで、一行目を復習することなく先へ進められたのです。
 手移りを忘れたときのためにと、私が作った虎の巻も役に立ったようです。
 それと、笙は親譲りの名器を持っていましたから、音の移り変わりを耳で理解できたのです。
 以上のことから、呼吸が苦もなく出来ることが肝心です。呼吸の練習方法は別記の通りです。
 毎日笙を暖めて吹くのが大変な場合は、「息は息、指は指だけで練習するように」と言います。吹口にセロテープを貼って、金具の横から呼吸するのも方法です。この練習は後日役に立ちます。
 難しいところは後回しにして先へ進みたがる人がいます。ほかの楽器ならそれも可能ですが、笙の手移りは一行目より二行目の方が楽ということはありません。
 笙は音のバランスが良くないと覚えられません。教えた通りに音を出してくれない人がいて、「こうやって押さえなさい」と何遍言ってもだめで、その笙を私が吹いてみたら、バランスが悪くて鳴らなかったのです。
 盤渉調音取で、「下」は鳴り過ぎ、「言」は鳴らな過ぎでした。「下」の音は響を押さえ、「言」の音は鳴りやすいように手を加えました。
 プラ管でも音のバランスが良ければ習うことが出来ます。高価な名器でも音のバランスが悪ければ習うことさえ出来ません。
 これは知っておいた方がよいと思います。他人の出す音は、音程もリズムも耳から入ります。しかし、自分が音を出すとき、音程は耳で合わせますがリズムは耳とはまったく無縁だということ。
 洋楽は、靴の中で爪先を動かします。つまり、耳から一番遠い所にリズムがあるのです。心理学的には「リズムは歩行に基づく」と言われています。その上で、雅楽は洋楽と違ったリズムがあることを理解して下さい。
 「曲の盛り上がりは」という質問もあります。一人で吹いているときは自分の気分でよいのですが、合奏のときは自分だけ盛り上がってもしょうがない、と思って下さい。
                    2007.9.28

19 笙の長期保存のために

 竹や木がカビないように、リードがサビないようにするのが第一で、お稽古のあと暖める程度だと充分とはいえません。もっと時間をかけるとよいでしょう。どの程度という目安はありませんから、念入りにとしか言えません。
 ケースに入っていればほとんど密閉状態ですので、外からの湿気は入らないと思います。ということは中の湿気も籠もってしまいます。心配でしたら乾燥剤も考慮のうちでしょう。内張の接着剤の湿気も気になります。
 虫はケースの中に入ることはないと思いますが、心配でしたら無臭防虫剤もよいでしょう。
 竹は湿気を嫌いますが、乾燥して油気が抜けると竹の質が弱くなります。
 対策は、胡桃を古いハンカチなどに包み、タンポンにして竹にすり込みます。胡桃は半個でも余るでしょう。
 金具の汚れ、特に口金はきれいにしておかないと、汚れているところがサビます。
 蜜蝋は乾燥すると接着力を失い、リードがはずれやすくなります。なくさない気遣いもしておいた方がよいでしょう。たとえば吹口にティッシュを詰めておくとか。
 しまって置く所は湿気のない所。
 たまには出して見るのも管理のうちです。
 何でもそうですが、最良の保存はしまっておくことではなく使用し続けることです。
                      2007.10.3

20 笙と洋楽の共演について

 オーケストラのように楽器の種類が多い場合は、ピッチを変えられない楽器もありますから、笙のピッチを変えることになります。
 オモリによって微調整をします。半音以内でしたらオモリだけで調整が可能です。
 ただ、元に戻す手間もありますから、二管用意している人もいるようです。
 弦楽器のように音程を変えられる楽器が相手なら、笙に合わせることも出来るでしょう。 音程に関しては大したことではありません。音程に関係なくてもやっかいな問題があるのです。
 作曲家はオタマジャクシで作曲しますから、笙で押さえずらい和音や、中には押さえられない和音があったりします。ごまかすしかありません。
 笙の楽譜はコードネームで書かれており、単音で吹く方が例外と言えるでしょう。
 和音は、わずか十種類が基本ですが、和音から和音へ移るのに約束ごとがあり、およそ三十通り、これを覚えるのに誰でも苦労します。これが日本の笙の吹き方です。
 通常の吹き方以外の技法が要求された場合は、それなりの練習をしなければなりません。 困るのはオタマジャクシの上にフォルテの記号がついている場合です。笙は、吹き始めは弱く、だんだん強く吹きます。これは、リードの構造がオルガンやハーモニカと違い中国笙とも違うからです。いきなり強く吹くとリードが片寄ったりします。
 日本の笙の機能や雅楽の奏法に合わせないで作曲された場合は困ります。
 可能性を追求したい人もいますから、それはその人達のすることだと思った方が良いでしょう。
 ただし、新しいミックス文化としてどうかという点では、雅楽の精神とは違うものになるはずです。 20 笙と洋楽の共演について

 オーケストラのように楽器の種類が多い場合は、ピッチを変えられない楽器もありますから、笙のピッチを変えることになります。
 オモリによって微調整をします。半音以内でしたらオモリだけで調整が可能です。
 ただ、元に戻す手間もありますから、二管用意している人もいるようです。
 弦楽器のように音程を変えられる楽器が相手なら、笙に合わせることも出来るでしょう。 音程に関しては大したことではありません。音程に関係なくてもやっかいな問題があるのです。
 作曲家はオタマジャクシで作曲しますから、笙で押さえずらい和音や、中には押さえられない和音があったりします。ごまかすしかありません。
 笙の楽譜はコードネームで書かれており、単音で吹く方が例外と言えるでしょう。
 和音は、わずか十種類が基本ですが、和音から和音へ移るのに約束ごとがあり、およそ三十通り、これを覚えるのに誰でも苦労します。これが日本の笙の吹き方です。
 通常の吹き方以外の技法が要求された場合は、それなりの練習をしなければなりません。 困るのはオタマジャクシの上にフォルテの記号がついている場合です。笙は、吹き始めは弱く、だんだん強く吹きます。これは、リードの構造がオルガンやハーモニカと違い中国笙とも違うからです。いきなり強く吹くとリードが片寄ったりします。
 日本の笙の機能や雅楽の奏法に合わせないで作曲された場合は困ります。
 可能性を追求したい人もいますから、それはその人達のすることだと思った方が良いでしょう。
 ただし、新しいミックス文化としてどうかという点では、雅楽の精神とは違うものになるはずです。
                      2008.2.1

  
21 笙の竹組にていて

 笙の竹組は左右均等ではありません。つまり、手前の長い竹と裏側の長い竹は対角線上にないのです。
 それは、指を入れる透間をどれだけにするかによって変わります。透間は竹の太さによっても笙の大きさによっても変わります。
 竹は、外経と内経は違いますから、経験で理解するしかありません。
 蜂巣(竹を差す穴の面)の半経を何pにするか、穴を何等分にするかは、作る人によってそれぞれ違います。穴の大きさも人によって材質により一律ではありません。
 竹の側面の削り具合は、桶の横板のように均等ではありません。0.0何oほどのゆがみを想定しなければなりません。
 それも、竹の位置によって差があります。長い竹に合わせて左右の竹にネジレをつけるのです。
 竹を蜂巣に組み立てる過程で削り合わせますから、ヒズミを解消する分だけ削り残しておくのです。
 長い竹二本の頂点がセンターライン上に相対するようにします。一般には正面(吹き口のある方)を吹口に合わせて直立させ、裏の竹を傾斜させています。
 私は、正面の竹も少しズラして、裏の長い竹と対々にしています。私がそうするのは、正面を直立にすると、裏の竹の傾斜が大きくなるからです。
 音を押さえる穴(指孔)を開けたら、指を差し込む透間の両側の竹の側面を削って指が入りやすいようにします。
 ここを削るときも、最後は吹いて音を出し、指の当たり具合で再度削るとよいのです。特に、「比」の竹の削り具合は、指を伸ばしたら穴の位置で指が止まるようにします。
 指孔の位置は、見た目と吹き具合は違いますから、そのときまたお聞き下さい。
                        2008.2.29

  
22 笙は自然律か平均律か

 笙は最小のオルガンですから平均律です。
 自然律と平均律の違いがわかりずらい人もいるでしょうから、簡単に説明します。
 レンガを地面に敷きつめると碁盤の目のように並べることが出来ます。これが平均律です。
 レンガの中に長さの違うレンガが入っていると碁盤の目にはなりませんが、12コで一組のまとまりが出来ます。それが自然律です。 レンガの長短については専門の勉強をして下さい。
 ピアノは平均律ですが、碁盤の目のように治まっているかというと、そうではありません。長さの違うレンガを同じ大きさにしてしまおうとする無理があるからです。
 調律師はレンガの長さに手を加えます。そして全体としてまとまったようにごまかします。ごまかすというのは調律師の言葉です。 ピアノコンサートに先立って調律するとき、調律師によっては、演奏曲目やピアニストの好みに合わせて調律することもあるといいます。
 別のピアニストのときは調律し直すことになるでしょう。
 笙は音の数が少ないから、ピアノほどの気遣いはないと思いますが…。
 私もチューナーで合わせますが最後は耳で合わせます。
 神様が絶対というのは信仰の世界のことであって、神様が造ったものには「ひずみ」が付きものです。「ゆらぎ」という言い方もあるでしょう。それが自然です。
 人は、型にはまって暮らしていると感性が狂います。自然ではなくなるのです。ひずみが許せなくなります。つまり、融通がきかないということです。
 音楽を習っている子は勉強も出来るようになる、と言われています。感性が型とひずみの間を行き来しているわけで、脳細胞が柔軟になっているのでしょう。
                    2008.3.13
23 乱節の笙は良い音?
 以前に「乱節の笙は良い音がするんですってね」と聞かれたことがあります。そのときは答えることが出来ませんでしたが、思い当たる話をします。
 ある店で煤竹を見つけて、数が足りないので短い笙を作ったのです。もちろん乱節です。それ用のケースも作りました。
 リードの研究が進むにつれ、取替々々しました。
 演奏会には使えませんが、演奏の指導をするようになってからは、持ち運びが楽で重宝しています。
 お弟子さんが言います。「先生の笙はすばらしい音がしますが、どこが違うんですか」
 「煤竹だからね」
 調律を頼みに煤竹の乱節を持って来た人がいます。
 「これはリードを削り直した方がよいですね」とおことわりして削り直しました。
 その人は、私の技術を認めてくれたのか、リードを取替て欲しいと言いました。
 出来上がったのを吹いたその人は、とても満足してくれました。大変上手に吹くひとで、聞いている私もうれしくなりました。
 節の数は音に関係なく、煤竹は煤竹の音がします。
 煤竹は高価ですが、乱節だと少しは安価です。
 リード作りの出来る奏者が、乱節の本体だけ買って、自分でリードをつけたならば、さぞ良い音がすることでしょう。
 それが質問の答かも知れません。
                    2010.9.25

  
24 喜怒哀楽の超越について

 以前に説明を求められたのですが、体験しないとわからないことなので、説明せずにおりました。
 ようやく、わかり安い例に気がつきましたのでお答えします。
 泣いたり笑ったりが人生ですから、それを超越した気持になるのは、普通の生活には無いことでしょう。
 「月の砂漠」という歌があります。
 まず、笙を習い始めた人から説明します。この歌は、笙の吹き方とまったく同じで、四拍目にメロディーを歌うだけで、あとは三拍伸ばすだけです。
 四拍目の笙の手移りをイメージして月の砂漠を歌って下さい。そして、手移りの気分を理解して下さい。
 歌詩ときたら、状況説明だけで感情説明はまったくありません。
 「二人黙って行きました」 どんな気持かわかりますか。しまいには、
 「二人はどこへ行くのでしょ」 知るもんかそんなもの。
 皆さん気持を込めて歌いますが、どのような感情移入をしているのでしょうか?
 雅楽も、この歌と同じだと思ったらよいでしょう。
                        2012.05.20

        



inserted by FC2 system